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〈番外編〉「新型コロナ・心の処方箋」その3

縁がわの常連・主婦ユキコが、ママ友から寄せられた“今ならではの不安・不満”について、同じく常連のキタオにアドバイスを求める特別編・その3。
緊急事態宣言は、家族の介護にも影響を及ぼしています。母のお世話に心が荒れるミセスの悩みに、キタオは仏教の立場からどう答える!?

 

介護疲れで精神崩壊!?…頼りのデイサービス休業

●M.T.さん(55歳)
夫を早くに亡くし、今は自分の母親と娘の3人暮らし。高齢の母は要介護状態で、基礎疾患もあるから、ウイルスの感染にはとても気を使っています。
普段は週に2回、デイサービスにお世話になっており、その時間が私の唯一の自由時間です。
今は新型コロナの影響で、デイサービスの会社が休業となり、毎日毎日、一日中母の介護を私がしなければならなくなりました。
母もデイサービスに行けなくなって退屈なのは分かるけど、大学生の娘のスマホ時間が長いとくどくど言ったり、一緒にニュースを聞いていても、素っ頓狂な質問ばかりしてくるから、思わず私もイライラ。ずっと一緒にいると、つい声を荒げてしまうこともあります。そんな日は、夜一人で泣いてしまいます。
先の見えない状況の中、どうしたら母に優しくなれるのでしょうか?

 

誰にとっても難しい、“如実知見”−ありのままに見る

あなたはとても親思いで優しい人ですね。なぜなら、お母さんに声を荒げた日は、夜一人で泣くというんでしょう? というか、「どうしたら母に優しくなれるのでしょうか?」という質問自体、優しくない人からは出ませんから。
しかも家庭内感染が増えてきた昨今、ウイルスの消毒に神経をすり減らしながら、一日中お母さんの介護をされている。本当に親孝行な娘さんだと思います。というわけで、あなたはそれ以上優しくなる必要はありません。以上。
と、これで終わってしまうと、さすがに紹介者のユキコさんからダメ出しされるので、少々、仏教的に解説させて頂きましょうか(笑)。
まず、どんなに仲の良い間柄であっても、四六時中一緒にいれば何かしら鼻につく時がある。これは当たり前のことなんです。というのも私たち凡夫(悟っていない普通の人)は、多かれ少なかれ”自己中心(わがまま)”という心のクセを持っているからです。
では自己中心とはどういうことをいうのか。要は「自分が得になること、有利になること、心地良くなることを好み、逆に自分が損になること、不利になること、心地悪くなることを嫌がる」という心なんです。
私たち凡夫は、無意識のうちにこの偏った基準で物事や他人を評価・判断し、「これは良い、あれは悪い」と平気で言っているわけです。しかも自分の評価・判断は絶対的に正しいと思い込んでいる。仏教では”如実知見(にょじつちけん)”といって、物事をありのままに、客観的に見るよう勧めているんですが、これがなかなかできません。
ですから、あなたのお話にあった家族の小さないざこざは日常的な光景であり、凡夫同士の生活としてむしろ普通のことだといえます。最近よく耳にする”コロナ離婚問題”の中身も似たようなものです。ある会社のアンケートで奥さんが離婚を考え始めた理由を見てみると「主人が在宅勤務になり、自分の好きなタイミングで食事や掃除ができなくなった。しかも主人が手伝わないのでストレスがたまった」とか、「日頃から好きなことばかりやって収入の不安定な夫が、このコロナでさらに収入が減った。もう我慢の限界」など、奥さんから見た”損・不利・心地悪さ”の評価基準に夫が抵触した事例ばかりです。夫の立場危うしですね!(笑)
でも、夫たちに話を聞けば、奥さんへの不満がそれなりに出てくることでしょう。それはそうです。私たちはみんな、凡夫同士で生活しているんですから。
まあいずれにしても、お釈迦さまに言わせると「あなた方みんな自己中心だから共同生活は大変だろうけど、できるだけ仲良く、苦しまずに生きてください。」となるんでしょうね。

 

親孝行な自分に自信と誇りを持って

ともあれ、話を戻しましょう。「どうしたら、今よりもっとお母さんに優しくなれるのか?」という質問でしたね。
ド直球の本質的回答は、「お母さんの性格や行動を丸ごと受け入れる」ということになります。「素っ頓狂がお母さんの持ち味だ!」くらいに思ってください。でも、イラつくものはイラつく。どうしたらいいのか。
具体的に申し上げると、たとえばニュースを見ている時。お母さんが素っ頓狂な質問をしてきてイラっとしたその瞬間、何か言おうとする心を抑え、口をつぐんで黙っていてください。まあ、大体5〜6秒くらいで結構です。そうすると、イライラのゲージがすっと下がる。すると、普通に受け答えができるんです。状況が許せば、そのまま黙ってニュースを見続けてもかまいません。しばらくすると、もういつも通りの会話ができるようになっています。
これはなぜかといえば、心に怒りが生じると、それに連動して頭も心も愚かな状態になるからです。つまり、怒ると瞬間的に前後の見境がつかなくなるのです。ですから、怒りで感情が乱れた時、反射的に受け答えをすると大体失敗します。それに対して、平静な心の時には理性が働いていますから、安全な対応ができるわけですね。
ただし、せっかく平常な心になったのに「まったく!お母さんはいつもこうなんだから」などと余計な妄想をしないように。これをやると、その妄想に反応して怒りの感情がまたぶり返してしまいます。
最後にもうひと言。冒頭で申し上げたように、あなたは今のままでも十分親孝行な方です。そこに自信と誇りを持ってください。たまにうっかり声を荒げたとしても、後悔の涙を流す必要はありません。「よし、明日は今日の分も含めてお母さんに優しくしよう」と思い定めれば良いだけなんですよ。

☆次回もお楽しみに!

 

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サティ〜ず

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仏教が大好きな二人による、ホッと家オリジナルユニット。

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