第二話 「ひとつの何故が、無限の世界へ繋がる」
小学三年生の時、今まで字が読めなくて悔しい思いをしていた僕に、本読みのビックバンが起きた。母親から字の読み方を教わるというお蔭さまの果実がぽとんと落ちた瞬間である。まるで、アイザック・ニュートンが、木からリンゴが落ちるのを見て「重力」を発見した瞬間と同じだ。宇宙の惑星等の運行の謎が、りんごがぽとんと落ちる瞬間に解けたのである。
ところで皆さんは、ここまで読んでみて何か疑問を持ちませんか?
実は、私が、字を読めるようになった最大の恩恵は、この疑問を持つことだったのである。
上述した、リンゴが落ちるのをみて「重力」を発見したというのは、実は大きな作り話で嘘だ。いや、物理学が分からない人に説明する際の後世のたとえ話なのである。ましてや、ニュートンが発見したのは「重力」ではなく「万有引力」である。また、ニュートンが発見したと言われる「重力」だが、物が落ちる現象、つまり物体が地球に引き付けられる現象であれば、古代ギリシャのアリストテレスも自説を唱えていたのである。惑星等の運行ならばイギリスのケプラーが発見していた。
ここで一つの疑問が湧く。「では何故、ニュートンは、ケプラーやアリストテレスより、これほどまでに知られているのか? 」
それは、「重力」や「引力」は天体のみに働くのではなく、質量をもつ全ての物体は、相互に引き合っているのであり、天体も質量をもつ物体にすぎないことを解き明かにしたからである。その後、ニュートンは、誰一人やったことのない力学と天文学をひとつの体系にまとめ、1686年「自然哲学の数学諸原理」を発刊し、その後の物理学に絶対的な影響を与えている。
私は、この一連の話が好きである。一番興味があるのは、ニュートンの実績を説明するための「たとえ話」が、何時の間にか「本当の話」になってしまう仕組みである。これなどは、インドの狼に育てられた二人姉妹の話と同じである。鈴木光太郎著「オオカミ少女はいなかった」を、是非、読んでみて欲しい。
さらに次の疑問が湧く。はじめの意図が、伝わるごとに変わっていくのは何故なのか? 伝言ゲーム関連の本は、組織活動を学ぶ際のひとつのテーマである。
また、話が戻るが、「重力」はニュートンの発見ではないのに、何故、ニュートンになってしまうのか? そして、ニュートンの最大の功績は「万有引力」の説を唱えたことであり、力学と天文学をひとつの体系にまとめたことであるにもかかわらず、何故りんごの話だけが広まってしまうのか? その仕組みを考えると限がないほどの本を読まなくてはならない。
しかし、これが、僕の本読みの原点なのである。
「ひとつの何故が、無限の世界に繋がる」。母親から字の読み方を教わった僕は、無限の世界に繋がる手段も母から教わっていたのである。そして、たったひとつの世界があることも分かった。それは、真理に繋がる道でもあったのである。