人生へのまなざし

第7回 見た目

1回目の抗がん剤治療が終わって3週間後、朝、髪の毛を触るとスルッとまとまって抜けました。「きたか」。想定していたことだったので、冷静に受け止めていました。抜ける前に髪の毛を全部剃ってしまう人がいるけれど、私はそこまでしなかったので、毎日、自分が変化していく様子を目の当たりにしました。

気づくとまつげも眉毛も無くなっていました。つけまつげにチャレンジしたけれど、1本もまつげが残っていない状態で、どこを基準につけていいかわからず、あきらめました。これまで40年以上、当たり前のようにあったものは、短期間にすべてなくなってしまったのです。爪も黒くなり、体重も一気に減ってしまいました。

あんなに痩せたかったのに、痩せてもうれしくなかった。これまで「下半身デブ」をなんとかしたくて、いろいろなダイエットに挑戦したのに、お風呂に入ったとき、足の付け根が窪んでいるのを見て、ちょっと前の自分が懐かしくなりました。

病院の行き帰り、私以外のすべての人が健康体でキラキラ輝いているように見えた日もありました。

医師から「がん」と言われたけれど、このときは、私が自分の見た目から「がん患者である」という事実を受け入れたときでした。お風呂に入るたびに、脱毛と痩せ細った身体を目の当たりにし、涙が溢れてきました。

そんな思いをしたにもかかわらず、いま、「下半身デブ」を取り戻した私は、少しでも細く なりたいと願う。お風呂に入って、別な意味で愕然とする今日このごろ(笑)

3年前、抗がん剤治療中に更新した免許証、そこには、痩せ細った、ヴィッグ姿の私が写っています。真夏を乗り越えるのはつらかったけれど、少しでも元気な人として写りたくて、頑張って笑顔を作っている。あのときの自分を愛おしく思いつつ、今年の夏に書き換える免許証に、ふっくらした自分を喜んで迎えよう。

 

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Rie
東京都生まれ。2015年5月に乳がんが分かり、半年間の抗がん剤治療を経て左乳房全摘出。現在もホルモン療法を続けている。これまで新聞記者、雑誌編集者などを経験し、がん患者やその家族、医療関係者などを取材してきたが、自分ががんになったことで、そのときには見えなかったこと、感じられなかったことを体験。病気を通して得た出会いのなかで、生きることの喜びとは何か、本当の健康とは、そして病とは人間にとってどのような存在なのかを追い求め、ご縁のあった方に自分の体験を通して気づいたことをお伝えしている。かつて取材を通して出会った「がん友」とも再会し、互いに病気を通して感じたことを分かち合っている。本当の健康の意味、知識について深めたいと、昨年、「健康予防管理専門士」の資格も取得。現在は中医学を学んでいる。

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