人生へのまなざし

真っ暗な空にこそ、星は輝く 第8回

大人になってからADHD(注意欠陥多動性障害)と診断された私が、子供の頃からの苦しい経験を振り返って見えてきた、さまざまなコトを綴ります。一人でも多くの方のお役に立てることを祈って。

自らの対策と周囲の配慮で、毎日がより楽しく

友達への声かけや、上手なヘルプの出し方を覚えた看護学生生活を経て、私は現在、ある病院の病棟で働いています。

薬の力を借り、本来の自分らしさを思い出したように毎日楽しく、そして自分らしく働かせていただけることが本当に嬉しいです。これまでの辛い経験がなければ、現在の“幸せ”を“幸せ”と思えなかったかもしれません。

薬を飲むと神経が研ぎ澄まされるのがよくわかり、集中したい時に集中でき、覚えたいものも以前より短時間で覚えられる。そして頭の中のごちゃごちゃがなくなることにより、パニックにならず、イライラすることもありません。結果、落ち着いて状況を把握することができ、冷静でいられます。なりたいと思っていた自分になれるし、人との距離感も掴めて、まるで人格が変わったかのような不思議な感覚になります。

このADHDの症状を改善する薬を開発してくれた人には、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。

ADHDの症状に悩んでいる方に、私の経験から、3つの対策をご紹介します。

対策①として、もし、薬を飲むことに抵抗がある方がいたら、試しに1週間や1カ月など、最短期間だけ飲んでみるのをお勧めします。どの薬もそうですが、副作用もあるので、合わなければ内服を止めていいと思います。ちなみに私は、今ではすっかり気にならなくなりましたが、飲み始めた頃は副作用に悩まされ、継続して飲み続けられるか少し心配でした。しかし、仕事で周囲に迷惑をかけてしまう方が嫌だったし、何よりも、悩みが明らかに減少したので、最終的には医師と相談し、飲む日と飲まない日を自分でコントロールしています。

対策②として、環境を変える(仕事を離れる)のもいいと思います。私も半年間、傷病手当金として基本給相当の額をもらいながら何もしない日を過ごしていたのですが、ものすごい解放感から、それまでかなりのストレスがあったのだと自覚しました。それに、心身ともに休めていると、次第に本当の自分とは何なのか、自分が何をしたいのかを見つめなおす時間も得られました。

あとはやっぱり、周りにADHDというものを知ってもらうことですかね。話せる人だけで良いと思います。これが対策③です。私は診断を受けてすぐに当時の一番の親友にメールをしました。彼女からすぐに電話がかかってきて、号泣しながら状況を話した記憶があります。彼女は医療の知識は全くありませんでしたが、インターネットですぐに調べてくれ、私を理解してくれました。

理解者がいるだけで結構安心感が得られると思います。その後、話せる人も増えて、新たに理解してくれる人も増えました。仲良しの友達には「私はそのままのERIKOが好きだよ。」と言ってもらえています。

また、今の職場で私がADHDだと知っているのは、多分師長だけ、もしくは主任までだと思います。私が忙しくしているとさりげなくフォローしてくれて、他のメンバーと同じくらいの時間には仕事を終えられています。人としても看護師としても尊敬していますし、こんな私を大切にしてくれて感謝しています。

最後に、もしあなたの周りにADHDだと打ち明ける人がいたら配慮してほしいのが、①「発達障害なの?見た感じ全然わからないから大丈夫だよ!」、②「忘れる?そんなの私もよ〜!みんな一緒!気にしすぎ!」、③「じゃあ私もADHDかも〜!」というようなセリフです。

これらの言葉、一見個性を認めているように思えますが、不快に思う人もいるような気がします。表現が難しいのですが、当事者は、見た目で分からないから悩んでいるんです。例えば、松葉杖をついている人がいたら、『骨折しているのかな?大丈夫かな?手伝おうかな?』など、自然に温かいまなざしで見ますよね。でも、見た目で判断できないADHDが原因の度重なるミスや、ちゃんと話を聞いているのかどうか分からない集中力のなさが人の信頼を失っており、本人たちは皆それを分かっているのに上手く対処できない悩みを持っています。日本の大半の職場では常に完璧を求められますよね。それに応えられないため、私たちは自分を責め続けているんです。私が周囲にADHDについて伝え始めたころ、上記のようなセリフを受け、もう誰にも話すまいと思いました。『自分が変われば相手が変わる』。周りの環境を変えられるのは自分です。まずは、自分がもう少し自信を持てるようになってからまた少しずつ周囲に自分自身を知ってもらおうと決めました。

ADHD当事者にとって、このような周囲の配慮があれば、とても助かります。でも、そんなこと言われたって難しいですよね。皆さん一人ひとり、自分の人生を必死に生きているんですもの。人のことなんて気にしていられない。忙しい時にミスされたら思わず罵声を浴びせてしまうこともありますよね。ビジネスは自分の家族や従業員の生活がかかっているんですから。医療現場だって、人の命がかかっています。なので、余裕があるときに、そっと温かい声を掛けてください。私たちは、そのような心の温かさに触れた瞬間の記憶は忘れません。

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ERIKO

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茨城県生まれ。幼い頃はおてんばで、木登りやかけっこをしては傷だらけの少女だった。
物心つく頃から人間関係で悩むようになり、自分を含め、あらゆる命がなぜその姿でこの世に誕生するのかを問うようになる。

23歳で看護師になるが、度重なるミスに上手く対処出来ず、うつ状態になる。
24歳でADHD(注意欠陥多動性障害)と診断を受け、治療薬を内服し始めると、ミスは激減。それまで苦手と感じていたあらゆる物事が徐々に解消され、人生が大きく変わっていく。
患者さんと接する中で、「私にしかわからない気持ちを、あなたは理解してくれる。あなたが担当で良かった。」と言われたのをきっかけに、自分自身のこれまでの人生を人の幸せのために役立てたいと思うようになる。

現在は看護師をしながら、東京都杉並区を中心に活動している『Let it be〜発達障害の子を持つ親の会〜』で、当事者としての思いを共有し、当事者だからわかる子供たちの気持ちを代弁している。

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