社会とつながる

人との繋がりが孤独を癒す

友人たちと一緒に取り組んでいる引きこもりの若者や家族への支援活動の中で痛感するのは、安心できる人や場所が存在することの大切さです。

引きこもりの人たちは、つらい孤独に耐えており、その孤独が彼らの心身を苦しめています。私は、他者と繋がらない自分の暮らしを望ましいと考えている人に会ったことは一度もありません。

ところが、いざ勇気を出して外に出ても、会社や組織などの社会的繋がりを持たない彼らに話しかけて、笑顔を見せてくれる人は誰もいません。出会う人は皆彼らに無関心で、無表情に通り過ぎるだけです。

そうした冷たい現実に直面して、彼らは落ち込んだ心を抱いて家に帰り、再び引きこもりの暮らしに戻るしかありません。引きこもりの人たちの一番深い悩みは、「孤独」なのです。

その悩みを打開するためには、「安心して行ける居場所」「胸襟を開いてつきあえる人の繋がり」が必要です。それを充実させるのが大きな課題だと私は考えています。
引きこもりの問題に限らず、「孤独」の問題は、人間としての最重要課題の一つなのかもしれません。

人は幸せでありたい。そして幸せのために必要なのは、「人との繋がりが確保されること」「安心感のもとに暮らせること」ではないでしょうか。

しかしその点で、日本の現状は満足な状態ではないようです。イギリスのレガタム研究所による、各国のソーシャル・キャピタル(人の信頼関係や結びつきの度合い)ランキング調査では、日本は141カ国中101位という残念な結果でした。

働き詰めの男性は職場以外の人間関係が築きにくく、心を許せる相手に飢えています。専業主婦の女性は家族以外の人と出会える場が少なく、それが心のバランスを崩す大きな要因の一つになります。高齢者のケアをしている知人のヘルパーさんは、介護の仕事よりも話の相手をしてくれと求められることが多いそうです。孤独な暮らしなのですね。

根がまじめで、人に迷惑をかけないように、人から後ろ指をさされないようにと気遣いながら暮らす中で、日本では、結局人と人との交流の垣根が高くなり、肩の力を抜いて心を開ける人間関係が乏しくなってしまいました。私にはそれが、多数の人を引きこもりに追い込む要因の一つであるように思われます。

同じ水を飲み、同じ風を受け、同じ光を浴びる人間どうしです。フレンドリーな関係を作れないはずがありません。日だまりの縁がわのように暖かで居心地がよい場所で、同じ急須から注いだお茶を飲むようなよい関係を繋ぐことができれば嬉しいです。

このITの時代、それはネットでも可能だと思います。この「縁がわ」のサイトを大切にしていきたいですね。

最後に、私の好きな歌を一つ紹介させてください。平安時代末の女流歌人・待賢門院堀河の歌で、「薬王喩品」という題がついています。

草も木も 己がさまざま生きにけり 一つの雨の注ぐ雫に
(草も木もそれぞれのかけがえのない命を生きている。すべての生命に平等に降り注ぐ慈雨の雫を受けて……拙訳です)

 

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田中登志道

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1950年茨城県生まれ。公立高校の教師をしながら不登校児支援ボランティアの活動に取り組んだ。1995年に全日本カウンセリング協議会認定カウンセラー2級を取得。2000年にフリースペースを設立し、進路相談や学習指導、カウンセリングにあたった。2008年、公立高校教頭の職を辞し、教育カウンセラーとして不登校、引きこもりの子どもを抱える家族の支援を続ける傍ら、生活困難者の自立支援、路上生活者の援助、障害者と共に生きる活動などに携わっている。
著書「不登校からの出発」(佼成出版社刊)
  「不登校かな!?と思ったときに読む本」(佼成出版社刊)

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