<前回のお話>「幸せを呼ぶ心の法則〜随念効果」
http://www.hotke1.sakura.ne.jp/wp/2019/05/31/第4回「幸せを呼ぶ心の法則〜随念効果」/
怒りの色眼鏡をはずしてみると
いつものように縁がわで読書に没頭していると、いきなり顔を覗き込まれ、キタオは思わず「うわっ」と声を上げた。
そのリアクションを見て、ケタケタ笑うのはユキコ。いつもは慌ただしく登場し、遠くから大きな声で呼びかけてくる彼女が、今日は少し雰囲気が違う。元気オーラは健在だが、どことなく落ち着いた雰囲気が漂っている。
「うまくいったみたいですね。」とキタオが声をかけると、「分かります!?」といたずらな笑みがほころんだ。
「あれ、いいですね。慈悲の瞑想。“古株さんが幸せでありますように…”って、毎日のように瞑想してみたんですよ。はじめは抵抗あったけど、だんだん習慣みたいになってきて。そうしたら、不思議なんですけど、古株さんの良いところが目につくようになってきたんです。パート仲間に元気がないと、さりげなく『調子でも悪いのかい?』って声をかけるとか、早番の時、じつは時間前に来てバックヤードを掃除してたとか・・・。
そんなふうに、私が素直に『良いな』って思えたところを誉めたんですよ。そうしたら、今度は古株さん、嬉しそうな顔になっちゃって。前は誉めたらイヤミかって怒られたのに、全然違うからびっくりしちゃいました!」
「それはよかった。慈悲の瞑想の随念効果で、ユキコさんの中に慈悲喜捨の心が育ってきたおかげで、怒りの色眼鏡が少しずつはずれてきたんですね。それで、古株さんの長所が自然と見えるようになった。で、自分に見えた相手の美点を素直に誉めたので、尊重の気持ちがストレートに伝わったんですよ。ちなみに、慈悲の瞑想は続けているんですか?」
「もちろんです! 古株さん以外にも、家族とか友達とか、たまには大きく出て、生きとし生けるものとか。(笑) 誰かが意識に上ったらすかさず『幸せでありますように』って念じてます。だれかの幸せを念じるって、それだけで心がなーんか明るくなるんですよね。それが心地よくてクセになったっていうか。家事の最中でも入浴中でも、いつでもどこでも気軽にできるというのがまた!」
ユキコは両手でグーのポーズを作り、満面の笑みを浮かべた。
幸せはシェアしたくなる
「いやー、ユキコさん随分ハマってますね。それにしても、こんな簡単に慈悲の瞑想の功徳を得ちゃうとは。やっぱり性格が素直だからかなぁ。あれ?なんかユキコさんから後光が差しているような・・・(笑)」
「またまた〜。キタオさん、からかわないでくださいよ!(笑) でも、たしかにご利益はあるかもです。だって、古株さんのガサツな態度やキツイものの言い方は変わっていないんですけど、近頃は気にならないというか、むしろ親しみを感じるようになっちゃって。」
「なるほど。それはいよいよ本物ですね。慈悲喜捨の“慈”はインドの言葉でメッタ—といって、もともと“友情”という意味があるんです。相手に親しみを感じるようになればしめたもので、古株さんとはもうすぐ大の仲良しになれますよ。」
「ですよねー。私もそんな気がしてるんです! 最近は、職場の人間関係も良好だし、子供とか旦那、お姑さんにも腹の立つことが減ってきたんですよ。慈悲の瞑想さまさまってカンジです。」
「良かったですね。これからもぜひ続けてください。」
「ハイ! で、あのー、今日はキタオさんに一つお願いが。」
「なんでしょう?」
「昨日、長い付き合いのママ友から相談を受けたんですよ。なんか旦那さんに浮気の疑惑があるとかで。さっそく慈悲の瞑想と人間関係改善法を勧めてみたんですけど、浮気の妄想で頭がいっぱいらしく、イマイチ心に響かないみたいで。明日、彼女をここに連れてきますから、ぜひ話を聞いてくれませんか?」
「浜(はま)の真砂(まさご)は尽きるとも 世に夫婦問題の種は尽きまじ、ですね。わかりました。お会いしてみましょう。」
「やったー、ありがとうございます!」
幸せを感じられる自分を見つけたら、周りの人にもその喜びを味わってほしくなった様子。
明日の縁がわも、騒がしくなりそうだ。