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ほっとけないお話①「ホッと家ジジの読後観」

「ホッと家ファミリーの『ほっとけないお話』」は、ホッと家ファミリー(ホッと家の住人たち)が、今、気になっている事、皆さんにお知らせしたい事、応援したい人たちなどをテーマにお伝えするコーナーです。

「皇帝フリードリッヒ二世の生涯」塩野七生著

聖地エルサレムをめぐる歴史の中で、奇跡の様な輝きを放つ人だ。神仏は、時々こういう人をこの世に送り出す。神仏の嫌いな人は、人間の歴史の面白さと、表現するかもしれない。13世紀前半、十字軍遠征の時代だ。聖地エルサレムでの奇跡和平と共同統治が13年間続く。武力に寄らない。相手に対する理解と信頼に基づく。この主人公は、相手の土地に僅か500人の軍勢で乗り込む。相手の若き交渉代理人とテントでチェスを指しながら、相手の言葉、で交渉する。帰り際に、自ら書いたアラビア語の詩文を託す。カリフの返礼の詩文を携えて、若き交渉人がまた戻る。チェスの続きを指す。交渉が続く。遂に交渉は成立する。最後まで、この主人公と、相手側のエジプトのカリフは、会わなかったようだ。エルサレムの門の前でカリフが出迎えたと云う人もいる。

エルサレムの門内に入った時、静寂が保たれている。時刻にも限らず、アザーンが聞こえない。主人公が尋ねる。相手の配慮だと知る。自分たちも自分たち流に祈る。あなた方も何時もの通りにしてくれと云う。この様にお互いを、尊重し、信頼し合って、奇跡の十三年間が成立する。

この和平を、ローマ教皇は認めない。キリスト者の血を流さぬ、十字軍の聖地奪還は認めない。中東の現地で、砦を死守してきた騎士団も怒る。だが、この早く生まれすぎた、知性溢れる稀代の国際政治家は、へこたれない。教皇側に付く国々に圧力をかけながら、新たな十字軍を出させない。この結果もあり、教皇より後年、二度目の破門になる。

一度目の破門も十字軍遠征にまつわる。神聖ローマ皇帝の位につきながら、教皇の立て続けの催促にも拘らず、十字軍遠征に立ち上がらない。やっと結成し、ベネチアより出発したと思ったら、すぐに引き返してきた。船内に疫病のモノが出たという理由だ。時間が過ぎる。遠征向きの風が変わる季節に成ったと、十字軍を解散してしまう。これで、一回目の破門にされる。この人はもともと気が進まないのだ。相手側、イスラームの文化と実態の姿を知り、理解してしまったからだ。周りの人に煽られても、戦闘をし、血を流すことをこの人の知性が、逡巡させる。何故その様な人が登場したのか。

主人公、フリードリッヒ2世は、1194年12月、父、神聖ローマ帝国皇帝と母、シチリア王女の間に生まれる。母41歳の時の子だ。父母ともに、少年期に死別する。シチリアの王宮で、アラブ系奴隷出身の家庭教師たちに囲まれ育つ。キリスト教国のラテン語はじめ、アラビア語を含む合計9か国語を学ぶ。またその当時はレベルのより高かった、イスラーム側の科学・文化も学ぶ。外では、多数住むアラブ系住民との接触で、全く違和感を持たずに育つ。少年王の庇護者は、ローマ教皇が務める。

しかし、父の地盤であったドイツ王の地は、少年王を見くびった多くの反逆者たちに占領されている。ローマ教皇の威光も無力だ。粘り強さと勘の良さ、強運に恵まれ、少しずつ失地を挽回する。この過程で、知力も、政治的嗅覚も武力も優れた王として育っていく。苦労の末に、19歳でドイツ王の失地を取り戻す。

この後、ドイツ、イタリアを統括統治されることを嫌う、狡猾な教皇側及び北イタリア都市国家と対立するようになる。

質素で、飲酒も控えめ。早朝に毎朝水浴びをし、体を清潔に守る。次いで、運動の為、側近等と馬で狩りに出る。それから朝食をとり、執務に入る。近代的な感覚の健康法であり、生活態度だ。但し、酒宴は豪華で、金の使い方は知っていた。
魅力的な女性は手に入れ、沢山、子をなした。わが子のみならず、有望な若者は身近で起居を共にしながら、有能な側近として育て上げた。

この皇帝の主力軍の中核は、神聖ローマ帝国でありながら、イスラームの戦闘能力に長けた若者たちで構成されていたらしい。又、アラビア語に通じている事より、何時しかエジプトにいるイスラームアイユーブ朝君主であり、カリフのアル・アミールと文通するようになる。この結果、イスラーム側のモノの見方や考え方を熟知していた様だ。動物学者であり、文芸保護にも尽力。法学を学ぶ場として、ナポリ大学を創設した。

200年後のルネッサンスを先取りするような知性。戦闘も交渉も上手な国際政治家。フリードリッヒ2世も死ぬ時が来る。1250年12月故郷のシチリアの地で、好きな狩りに出る途上、急逝する。56歳。病死だ。遺骸は、シチリア・パレルモの大聖堂に埋葬されている。

昨今の某国大統領による大使館のエルサレム移転等々、イスラーム諸国の反発をあおるだけの愚挙と思われる西側世界の動きの数々。この主人公の生まれ変わりの登場を待望したくなる国際政治の不毛さだ。著者塩野七生氏は、このフリードリッヒ2世については、最初から、書きたい対象だった様だ。代表作の大部「ローマ人の物語」ほか、多くの地中海世界の歴史物語を経て、この念願の目標にたどり着いたようだ。


◇今回のほっとけない情報
『皇帝フリードリッヒ二世の生涯(上・下)
塩野七生 著 / 新潮社 刊
上下巻 各 2592円(税込)

 

 

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