父は、少年野球のコーチでした。私も在籍したチームのコーチを25年もやった人でした。暑い日も寒い日も、1円の得にもならないことに、並々ならぬ情熱を注いだ人でした。
以前書いたように、うちは貧困家庭でした。しかし父をうらむような気持ちは全く起こりませんでした。
さて、私が大学で教員免許取得にむけて、勉強をしていたある日、父がこう言いました。
「今日、チームに入ってきた小学1年生の男の子。最初にバッティング練習をする時、お前ならどこにボールを投げたらいいと思うか?」私は戸惑いながら、「真ん中にゆっくりとしたボールを投げる?」と答えました。
すると父は「それは甘い。まずは投げる前に、その子に3回バットを振らせる。もちろん、めちゃくちゃな振り方だ。そこで、バットがどこを通るかをよく見て、バットの軌道上にボールを投げる。すると当たる。子どもは喜ぶ。来週も来るようになる。こういう工夫が必要だ。真ん中のボールを打てるように教えるのは、毎週来てから。まずは野球が楽しいと思わないと何も始まらない。」と教えてくれました。
父は、戦中生まれでしたが、小学校も中学校もまともに通ったことがなく、字が書けない人でした。(かろうじて読むことはできました。)
一方私は大学で教員免許を取るべく学んでいましたが、「教育に関しては父の方がすごい!!」と思えました。
私が無料学習塾である「八王子つばめ塾」の運営上、大事にしているのは、「教育は有資格者が独占するものではない。」ということです。学習支援ですから、勉強を教える最低限の知識は必要ですが、大事なことは、「子どもたちに希望を持ってもらいたい。幸せになってもらいたい。」という思いです。そしてその子に寄り添う姿勢です。そこから、「自分も勉強してみよう」という子どもの意欲が湧いてくると思うのです。単に知識を伝えるだけならAIでもできます。しかしそこに「思い」というものが必要です。
父が野球のコーチをする姿を見て学んだことは、そのことでした。今週も70人の「ボランティア講師」が八王子つばめ塾にきてくれ、工夫をしながら教えてくれています。私も、子どもたちへの思いを大切にして、経済的に苦しいご家庭のために、尽力していきたいと思っております。
◇八王子つばめ塾サイト
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