家族とつながる

家族の諸行(因縁によって生じたこの世の一切の事) 「父の場合」#4

1976年夏。良く晴れ渡った週末の午後だった。カナダ、モントリオール郊外にある球場のネット裏席に父と私は座っている。私は、企業派遣で米国中西部の経営大学院に留学中だ。学校の夏休みを利用して、父に会いに来た。国際試合が進行中だ。

突然、背の高い、褐色のラテン系の壮漢が現れた。サングラスをかけている。父の親友だ。満面の笑みで挨拶を交わしたが、直ぐに、私がスペイン語は話せないとわかると英語のミックスに成った。横に座りながら、話し始めた。「お前の親父は凄い良い奴なんだ。ただ、悪い奴でもある。それに、御婦人にモテ過ぎるのが欠点だ。」

「お前の兄弟は何人いるか、誰も知らないよ。スペイン語を話し、野球好きの国には、いると思え」と云う。何か少し、わだかまりの匂いが、混じっていると感じた。父は、「いきなり与太話は止めてくれ」と笑い飛ばした。もうこんな話が、出ても笑っていられる親子に成っていた。

このラテンアメリカのアミーゴが、野球をオリンピック種目にするという夢に向かって、父を始め多くの人々を巻き込んで、何年も大奮闘をした。スケールの大きさを感じさせる魅力的な人だった。彼の名は、ガルシア、ニカラグアの人だ。

父より十歳以上若い。まだ彼が30歳代後半の1972年、ニカラグアで世界野球大会が開催された。大統領から支援を得て、持ち前のリーダーシップと企画力で、大成功させた。開会式のバックスクリーンには、五輪のマークがモチーフ化されて、掲げられていた。皆びっくりした。野球とオリンピックなんて結び付けられなかった。でも、彼はその可能性を探って、1959年に当時のブランテージ会長まで、会いに行っている。20歳代の若さだった。

その夢とロマン、熱い思いで、周りの人間を巻き込んでゆく。父もこのドンキホーテ集団の仲間に成る。オリンピック種目でない為に、予算もままならない。各国の大概の役員は手弁当で、世界各地に集まってくる。又、日米の野球用具メーカーが道具を無料で提供したとしても、受け入れ側の国で、40〜60%の関税がかけられる。それを解決できる道は、オリンピック種目入りだ。最低50か国以上に普及する必要がある。

大目標に向かっていいスタートが切れた。だが、その二か月後、予想だにせぬことが起こる。ニカラグア大地震だ。首都が壊滅的打撃を被る。幸いにも、同国野球関係者は無事だった。だが、半年後の世界会議で、キューバ代表が騒ぎを起こす。規約に反し、半年しても、大会の決算報告も連盟への上納金納入もない。従い、ガルシアを除名・追放処分しろと云う。真因は、この若き野球界リーダーの才能への妬みと、中南米野球界の盟主の座を脅かされるとの恐怖心だろう。

大地震という不可抗力での遅れで、配慮があってしかるべきと云う多数派と、キューバに組する中南米の古い野球国の少数派が対立。遂に、キューバを代表とする古い連盟と、若きリーダーを代表とする新連盟が分裂。オリンピック側からは、一つの組織に成らなければ、オリンピック種目入りは無いと圧力がかかった。

ここで、キューバとの歩み寄りの道を探る為、父は単身首都ハバナ入りをする。キューバと日本とで、交互に、チームが訪問し合い、試合をしよう。費用は日本持ちと提案する。相手の代表は、自分の国内での株が上がることだ。大喜びで賛同した。これで、両国間の野球交流が始まる。

日本では、初めて見るキューバ野球のレベルの高さに交流試合は大成功を収めた。キューバでは、日本の下手投げ投手や守りを中心にした野球が大好評を得た。また、野球好きのカストロが、出席した開会式で、父は、スペイン語でスピーチした。途中、「えーと」と言って、日本語が入ったが、見事にやり遂げた。球場中喝采で、喜んだ。それ以来、アミーゴだと後々キューバの人から聞かされた。

組織が合流する条件を探った。キューバの代表は、慎重だ。なかなか腹を割らない。やっと、「米国が会長の下には入れない」。もう一つは、「若きリーダーに権力が集中しない」こと。この二つを示した。これを叶えつつ、組織が一つに成るという実を取る案を父は考えた。

その為には、ガルシアに我慢して貰い、一期四年間と限り、キューバ代表を会長にする。その次は、ガルシアが会長に成る処まで、一括で総会で議決する。これしかない。この構図が、ソ連はじめ、共産圏のIOC委員の票も得易い。説得にかかる。怒りで、泣きながら喚く。それを仲間皆で説得した。直ぐにわだかまりは解けない。そんな中で、モントリオール野球場での会話に成った。

次回は、半年後、舞台がニューメキシコシティでの話です。

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イチゾウ

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団塊世代、重厚長大産業出身、第二の人生真っ只中。

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