私の名前はヤッシー。会社人生は終わった人ですが、第二の人生はこれから。会社の重しが取れた身軽さで見たこと、聞いたことなどをきまま(気まま、生まま)にお伝えします。きままなので、悪しからず不定期です。
≪蕪村の一句≫
12月に入りましたが、色づいたモミジをまだ楽しめている地域もあるかもしれませんね。
「ヤッシーのきまま見聞録1」でご紹介しましたが、私は3月の涅槃会の時期に京都のモミジの紅葉の名所でもある東福寺を訪れた際に「今度は紅葉(こうよう)の時期にまた来よう(こうよう)」などとしゃれていましたが、結局その願いは叶わず。京都のモミジを見るには見ましたが、3月半ばの東福寺と「見聞録3、4」でご紹介した9月半ばの京田辺市の酬恩庵一休寺で、まだ青々と茂るモミジを鑑賞するにとどまりました。それはそれで清涼感があって、とてもきれいでしたが。
その代わりという訳ではありませんが、今年は初めてモミジではなく桜の葉の紅葉に魅せられることとなりました。そのきっかけは与謝蕪村の次の一句にふれることができたからです。
紅葉して それも散行く 桜かな
凡夫で食いしん坊の私は桜の葉と言えば桜餅をくるんでいる香りのよい葉ぐらいしか思い浮かびませんが、実は自然や風流をめでる人は桜の花はもちろんですが、葉の紅葉の美しさにも注目をしているのです。「桜紅葉」(さくらもみじ)という俳句の秋の季語もあるほどですから。
桜の葉の紅葉は樹木の中では比較的早く始まり、何か不ぞろいに紅葉が進み、紅葉の主役であるモミジの見ごろのころには早々と散っていく—そんな姿に、もののあわれや不調和な美しさを感ずるからこそ桜紅葉が季語になったのかもしれません。自身の花のような豪華さはなく、モミジの紅葉のようにハッと息をのむような統一感のある美しさ、派手さはありませんが、何か奥深い、もの悲しさ、変わり様がひきつけるのでしょう。
わが家の近くの公園にも樹齢30年ほどの桜が列をなして植えられており、春先には見事な花を咲かせます。その時期には私もお花見を楽しんだことがありましたが、今年はこの蕪村の一句にふれ、ひかれたことで初めて桜の葉の紅葉をじっくりと観察してみました。すると確かにその通りで一本の木の中でも黄色に染まった葉もあれば赤くなっている葉もあります。中にはまだ緑色を残しながら黄色や赤に色づいている葉もあります。まさに不統一の美しさ、それはグラデーションのような変化に富んだ味わいです。思わずその葉を拾い集め、写真に撮ってしまいました。
蕪村は秋にこの紅葉した味わい深い美しい葉も散り行きて、やがて冬を迎え、寒風の中を耐え、それを越え、そして春にはまた見事な花を咲かせる桜の生きざまの中に、混じり気のない精進の姿、「正精進」を見たのでしょう。自然の営みや変化を偏りなく見ることができる、「正見」が備わっていなければこれを見通すことはできないと思います。
蕪村は江戸中期の俳人ですが、同時に画家(文人画)でもありました。池大雅や円山応挙と並び称され京都画壇でも活躍しました。蕪村の俳句には絵画の世界のような美しさ、描写が感じられますが、画家になるほどの自然の摂理、真理を偏りなく見て取る目が備わっていたからこその俳句だったのです。
京都の北東、叡山鉄道の一乗寺駅から東方向に歩いて15分ほどの金福寺(こんぷくじ)に与謝蕪村のお墓があります。京都の南東にある京田辺市の酬恩庵一休寺とは京都駅を挟んで反対の方角です。
食いしん坊の私は京都の一乗寺と言えば駅の西側に連なるラーメン街道しか思い浮かびませんでしたが、何とそこに蕪村のお墓があったのです。桜紅葉の句に魅せられた私は一乗寺に蕪村のお墓があることを知り、酬恩庵一休寺を訪れた翌日に参拝することにしました。
私が訪れた9月中旬は、台風21号の風雨の影響であいにく本堂は閉まっており拝観することはできませんでしたが、裏山に建てられた蕪村のお墓を参拝することはできました。蕪村のお墓の横にはその季節に詠んだ蕪村の代表作と略歴が掲げられています。生涯に2850句を詠んだと言われている蕪村ですから、掲げる句はいくらでもあります。私が訪れた時には台風の影響もあったのか、まだ夏の句が掲げられていました。
蕪村は俳聖・芭蕉が亡くなってから約20年後に生まれているので生前に交流することはありませんでした。しかし蕪村は俳聖・芭蕉を尊敬し目標としていました。金福寺の鉄舟和尚は芭蕉との交流があり、そのご縁で芭蕉が同寺を訪ねて草庵(後の芭蕉庵)で俳句を詠んだこともありました。蕪村は荒れ朽ちていた芭蕉庵を60歳の時に再興しました。金福寺には芭蕉の碑や蕪村の遺品などもあり「俳句の聖地」と言われています。
蕪村のお墓をお参りし、混じり気のない「正精進」を教えてくれた、桜紅葉を詠んだ句にふれられたことに感謝の意を伝えました。
桜紅葉に ひかれ蕪村の 墓参る
追伸:ヤッシーが本の第2弾を出しました。「働く方・働く場改革 人と職場を活性化する笑談力・考動力 〜笑いをうむ19(いっきゅう)のワザ〜」(ビジネス教育出版社)。ご購読いただければ「笑いのコミュニケーション」と「考えて動く力」を磨くための一助となるはずです。