エッセー

病と付き合うとき#6

二回目の脳内の異変で、病院に行った。今回は大変なことに成っていた。
CTスキャン、MRI検査の結果、脳幹部で出血していることが判明した。直ぐ、ICUに入れられた。

そんな大事だとは思ってもいなかった。右手が効かないのと、ふらついて歩けないだけだ。新病院に成って、精度の高いMRI装置に成っていた。その画像に、頭のど真ん中で、出血部位が、黒く鮮明に映っている。だが、血は散らばっていない。そこに、たまたま、海綿状の腫瘍が出来ており、血がその中に、留まっている。MRIにその様が写っている。

血が、脳内に飛び散っていれば、担当医曰く、真面にしゃべれないし、モノも二重三重に見えている筈だ。今の症状で収まる筈がない。膨れた部分が、神経を圧迫し、右手の痺れと足元のふらつきが起きている。
まず、出血を止めることを優先する。血液をサラサラにするバイアスピリンを止める。後は絶対安静で、トイレも車椅子だ。

数日して、出血が止まると、一般病室に移された。担当医より、脳幹部なので、リスクを冒して手術はしない。幸い、良性の腫瘍であり、体が血を吸収し、萎むと機能は元に戻るとの判断だ。そのまま、入院して、二週間ほどで、右手の痺れも薄れ、真直ぐに歩けるようになった。MRI画像でも、出血部位の色が、少し薄れつつある。退院だ。

医者のアドバイスは、ストレスを溜めないこと。従い、次の三点を直ぐに再開しなさいと言われた。
一つ目は仕事。これにより生活のリズムを元に戻す。二つ目は、歩くこと。そのことに意欲的に取り組む意味で、ゴルフをすることは大いに結構。三つ目は、節度ある適量のお酒の復活。酩酊禁止。

後日、事の顛末を、大学のクラス会で友人たちに話した。そんな幸運が重なるなんて、聞いたことが無い。「これから、余程人の役に立ち、喜ばれることをすることだ。」と異口同音に言われた。兄の預言より、二年早く脳内出血が起こったが、今回は乗り越えられた。そして、同じく寿命と云われた、六十九歳を超え、七十歳代に突入した。云わば、寿命の贈薬を頂いていることに成る。

経年劣化は、色々と現れる。それらに囚われずに、前向きに生きることにしている。先ずは、仕事を続けられる場に、巡り合えたことに感謝、感謝だ。
第一の重厚長大の仕事とは、全く違うジャンルだ。非営利組織の経営改革の仕事に関わりはじめて、もうすぐ十年に成る。
第二の人生では、金銭報酬等、形に現れる報酬は重要ではない。形に現れない、インタンジブルの報酬こそ重要だ。若い人たちに接しながら、自分が持ち味を発揮でき、且つ、お役にたてる。だからこそ、新しい分野の事でも勉強することが出来る。すると、自ずと、目標を持った時間の過ごし方に成る。

さらに、体への向きあい方も、違ってくる。何事も、前向きに考え、先手必勝だ。定期健診を必ず受ける。癌や腫瘍は、細胞が分裂する時の、ミスプリントが原因だ。どこでも、ミスプリントは起こりうる。年齢と共に、これを修復する、免疫機能もあやふやになり、見逃しをする。従い、早く見つけて、早く処置をする。最近も、定期健診で、初期の胃癌が見つかった。内視鏡手術を受け、一週間足らずで、退院した。

最近はエンデイングの事も少し意識する。

父は、いわゆるPPK、ぴんぴんころりの典型だった。八十七歳で、虚血性心不全が死因だ。八十歳代半ばまで、海外に仕事に出かけた。最期の日も、心不全を起こす十五分前まで、海外の後進の人と電話で話し、激励をしていた。お気に入りの椅子で、好きな葉巻に火をつけた。テレビを一人で見つつ、うたた寝をした。その時、発作が起こり、あっという間だった。あの世への旅立だ。一陣の風と共に消える様だった。あとで、家族に知られないように、ニトログリセリンのお世話に成っていたことが分かった。

自分の理想も、父の様でありたい。兄の言ったように、脳内出血かも知れない。死ぬ時で、その人が分かると言う。こればかりは、神仏のみぞ知るで、自分ではどうしようもない。少しでも、本性の自堕落なところが抑えられたら。少しでも、人様に喜ばれることが出来たら。少しでも、徳分がつめたら。仏さまから、「よし、今世のお役目は、卒業だよ。」と言って頂けるかも知れない。

願わくは、努力をしつつ、体力が尽きる。あっという間の、エンデイングがいつか来ればと思う。

以上

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イチゾウ

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団塊世代、重厚長大産業出身、第二の人生真っ只中。

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