社会とつながる

ホームレスの神様、路上生活の文殊様【前編】

この数年、東京の山谷地区で、路上生活者支援のボランティアをしています。

月に2回、土曜日にお休みのデイサービスセンターを会場に、路上生活者や、ドヤ(簡易宿泊所)住まいの人たちをお迎えして茶菓をふるまい、衣類や医薬品を提供し、希望者に散髪をし、入浴や映画、カラオケを楽しんでもらっています。12時の開始から4時の終了まで、来る方を「よく来てくれました」と迎え、帰る人を「また来てくださいね」と見送ります。ささやかな活動ですが、少しはお役に立っているような気がします。

ホームレス・路上生活者というと、不潔で怠惰で、まともな暮らしをしない人たちという先入見を持つ人が多いのではないでしょうか。

しかし、彼らと知り合いになると、そのイメージが実際と違うことがわかります。

路上生活は、忍耐、努力、協調性が必要です。風雨をしのぎ、寒さ暑さに耐え、仲間と助け合い、情報を交換し、少ない収入を大事にし、地域住民に迷惑をかけないように日々の配慮をしないと暮らしていけないのです。

人間の社会では、まじめに生きて働いても、運悪く、それまでの人生で築き上げたすべてを失うことがあります。例えば会社の倒産、リストラ、破産、事故、病気、家族の深刻な問題……そして身ぐるみはがされるように家族・財産・社会的地位を失って、路上に投げ出されてしまうのは、けっして珍しいことではありません。

私たちは来られた方の経歴を聞き出すような対応はしませんが、自然な交流の中で、会社の社長だった人、猛烈社員だった人、ロシアや中東で調理師をしていた人、韓国人の妻のいた人、かわいい孫のいる人、生きる途上で心を病んでしまった人、大きな宗教団体に所属して今も活動している人、エリートの家庭に生まれて親の願うコースに乗れなかった人、アルコール依存症で家庭と職場を失った人、その他さまざまな経歴の人がいることを知りました。

社会保障のシステムが確立している現代の日本で、生活保護の受給は困難ではありませんが、あえて公的支援を受けずに路上で暮らす人たちの中には、「俺は自由に生きたい。生活保護と引き換えに管理される生活はごめんだ」という自由選択型、「税金で暮らすのは申し訳ない。年を取った私だが、できる限り自分で頑張ってみる」という自助努力型の人たちが多くおられます。人の生き方・考え方・暮らし方という点で、彼らから学ぶことは多いです。

路上生活者と私の間には、人間として何の違いもありません。もし違いがあるとすれば、私はたまたま運が良くて路上生活をせずに暮らせているのに対し、彼らは巡り合わせが悪くて路上の暮らしをせざるを得ないということでしょう。違いは運と巡り合わせの良し悪しだけで、努力や能力の違いではないと思うのです。

現世には、至る所に落とし穴や行き止まりの壁が隠れています。私たちの身の上にも何が起こるかわかりません。私は同じ苛烈な世界に生きる人間どうし、縁あって出会った友人どうしとして、路上生活の皆さんとおつきあいを続けたいと願っています。

「ホームレスの神様、路上生活の文殊様【後編】」に続きます。

 

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田中登志道

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1950年茨城県生まれ。公立高校の教師をしながら不登校児支援ボランティアの活動に取り組んだ。1995年に全日本カウンセリング協議会認定カウンセラー2級を取得。2000年にフリースペースを設立し、進路相談や学習指導、カウンセリングにあたった。2008年、公立高校教頭の職を辞し、教育カウンセラーとして不登校、引きこもりの子どもを抱える家族の支援を続ける傍ら、生活困難者の自立支援、路上生活者の援助、障害者と共に生きる活動などに携わっている。
著書「不登校からの出発」(佼成出版社刊)
  「不登校かな!?と思ったときに読む本」(佼成出版社刊)

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