在家仏教を信仰する両親と三人兄妹(私は末っ子二女)。
そしてなぜか次々とわが家を訪れる人々との、なんとも不思議な日々。
昭和の終わりの混沌とした記憶を、自らが子育て奮闘中の今、順不同に綴ってみる。
多少、盛りつつ♪
☆「オッカァサ~ン、キィテクレルゥ~!?」
当時小学生の私が、夕方のアニメを見ながらちゃぶ台でご飯を食べていると、またあの甲高い声が飛び込んでくる。
メイメイは、オシャレでさらさらのロングヘアが似合うベトナムの美女。マンションの最上階に夫婦で住んでいる。
オカアサンとは私の母のこと。「ジェムシーね、ヒドイのよ!」
「ノ~。悪いのはメイメイね」。間もなく現れたダンナは香港出身の色男・ジェムシー(子どもの私にも一目でわかるほどの)。
6畳間の小さなちゃぶ台を挟んだ夫婦げんかは、感情が高ぶると、それぞれのお国の言葉の応酬になる。
頭上で行き交うけたたましい外国語を聞き流し、見たいアニメに集中する技を身につけた私。
そして、にぎやかな口げんかが一段落した頃、台所で夜の支度をしている母が、若く美しい夫婦に笑顔で声をかける。
「気が済んだ? 夕ご飯でも食べていく?」
「タイジョブ。帰るネ」と手を繋ぎ出ていく男女を見送るでもなく、私はテレビに顔を向けたまま、毎回思う。
――何しに来てんだ!? あの二人。
しかし母には何も問わず、代わりにメイメイの口真似をしてみる。
「キィテク~レルゥ~!? タイジョブ、タイジョブ。”だ”って言いにくいのかな?」
何ごともなかったかのように、父の晩酌と、私よりかなり年上の兄・姉の夕ご飯の支度に戻る母。
狭く薄暗い古マンションの台所(「キッチン」という表現はふさわしくない)で、
その横顔は、少し笑っていた。