2015年の6月、乳がんと診断されました。半年にわたる抗がん剤治療を経て左胸を全摘出し、その後、ホルモン療法を続けながら、現在、生存率更新中です。
20年以上にわたる新聞記者時代、幾度となく、がんを体験した人を取材してきました。「目の前の人の苦しみは私には到底計り知れない」。そう思いながらも、できるだけ相手の方の思いに寄り添って、話を聞き、記事を書いてきた
つもりでした……。自分ががんを体験した立場で、これまで書いてきた記事を読み直すと、「おいおい、ちょっと視点が偏っていないか!」とツッコミを入れたくなることばかり。でもそれは、体験者だからこそ言えることなのかもしれません。
つらさとか悲しみ、苦しみ、痛みにばかりフォーカスしてる!!
抗がん剤治療の副作用、抜け落ちる髪や外見が変わっていく不安、乳房を失った悲しみ、再発や転移の不安、死と向き合わせの日々……。もちろん、私自身もそのすべてを体験しました。でも、決して四六時中そんな思いばかりに包まれていたわけではないし、たとえ声をあげて泣いた日だって、泣きやんだあとにつかんだ思いがあります。
がんと診断された日、病院の外に出て空を仰ぎ、「これから一体どうなるんだろう」と心の中でつぶやきました。そのあとすぐに脳裏に浮かんだ思い。「しかたがない。がんになっちゃったんだから」。そしてまたすぐにわき起こった小さな希望。「きっと悪いことだけではないはずだ」——。
私はスーパーポジティブな性格ではなく、むしろ悶々と考えるネガティブタイプ。だからしこりに気づいて病院に行くまでにもウジウジしていて相当時間がかかりました。でも病気が分かったこのとき、何の根拠も医学的証明もないけれど、漠然とした思いが私を支えてくれた。そして、精神的につらいことや肉体的な痛みや不調も含めてとことん味わい尽くす気持ちで過ごしたら、「苦い味」ばかりではありませんでした。
病気にならなければ出会えなかった人、出会えなかった言葉、気づけなかった思い、味わえなかった感情……。仏さまというのか、神仏というのか、宇宙というのか。私の想像をはるかに超えたスケールの大きな存在が、「がん」を通して、最高の贈り物を与えてくれたと心底思っています。「胸はないけど胸いっぱい♡」と友人に言うと、苦笑いされ、時には「笑えない」「自虐にもほどがある!」と一蹴されることも(-_-;)。きっと私も友人にそんな人がいたら「この人、ちょっとおかしいんじゃない?」と思うかもしれません。
ただ、私は、強がっているわけでも美談にしたいわけでもなく、けれども、ない胸を張って(また自虐 笑)この体験をしてよかったと言える。おかしな話だけれど、病気になる前よりも病気になってからのほうが「生きている」と実感しています。
いま、記者の私ではなく、がん患者の私だからこそ書けることを書いてみたい。そして、かつての私には思い浮かばなかったようなことを、同じようにがんを体験した人と語り合ってみたい。「がん」をネタにして、思う存分、皆さんと心を通わせたいと思っています。