社会とつながる

「次の時代を担う君たちへ 誰かのために頑張れる自分がいる」

皆さん、中学校卒業おめでとうございます。

最初に、私がどんな思いでつばめ塾を立てたのかというお話をしたいと思います。
私は26歳の時に映像制作の仕事に転職し、その1年後に仕事でアフリカのウガンダという国に行きました。政府軍と反政府軍が今でも戦っている国です。そこでは反政府軍が子どもを拉致して兵士にします。少しずつ大人になっているけれど、まだ自分いうものを確立できない10歳から12歳くらいの男の子を狙うのです。小さければ役に立たないし、大きくなれば洗脳することが難しくなるからです。拉致された少年は銃を持たされて戦闘に参加させられます。怖くても逃げ出すことなどできません。脱走して失敗すれば殺されます。しかも単純に大人の兵士が銃で殺すのではなくて、子どもに集団でリンチをさせて殺させるのです。こうして恐怖心を植え付けて逃げ出さないようにするのです。

それでも戦闘中に反政府軍とはぐれて、街まで逃げて来る子どももいます。そういう子を匿う施設に取材に行きました。見ればみんな可愛い顔をした男の子です。皆さんとなんら変わりない少年です。でもその中には、自分の村を襲撃する時には先頭に立たされ、「親戚や知り合いに銃を撃ちはなったため、もう二度と自分の故郷には戻ることはできないんだ」と寂しそうに話す子がいました。皆さんと同じ年ごろの子です。残念ながらこれが世界の現実なのです。

さらに、アフリカで蔓延するエイズの取材もしました。両親をエイズで亡くした小中学生が1000人も暮らす学校です。大きな釜に豆がたくさん煮られていて、これが昼の食事だと言います。「おかずは?」と聞くと「そんなものはない」と言われました。しかし、煉瓦の崩れた壁の穴から教室を覗くと一生懸命に勉強する生徒の姿がありました。ホテルに帰って夜寝るときには、昼間の取材のことを思い出します。27歳の私には、目の前に広がる光景があまりにも日本と違いすぎて受け止めることができませんでした。「苦しみ」の意味が日本と全く違うのです。先輩が寝静まってから、毎晩枕に顔をうずめて泣きました。そこで誓ったのです。「今は映像制作の仕事をしているけど、日本に帰ったら、いつになるかわからないけれど、人材を育てることをしよう。世界を少しでも良い方向に導ける若者を育てよう」。たった2週間滞在するだけで安全な日本に帰ってしまう私にとって、そう誓うことしか、ウガンダの子どもたちにしてあげられることはなかったのです。

月日は流れ、つばめ塾の元横山教室のスペースが空きました。私は思いました。この千載一遇のチャンスを逃す事はできない。次の時代を担う人材を育てるチャンスが巡ってきた! こうして今から4年半前につばめ塾が立ち上がったのです。

さて、話は変わりますが、今、お医者さんとして働いている知り合いに話を聞いたことがありました。その人は苦労して国立大学の医学部に入ったそうですが、そこではほとんどの大学生が、車で通っていて、さらに大部分がベンツとかBMWとかの外車に乗っているのだそうです。たかだか18、19歳位の学生がですよ!! これを聞いた時、私は思いました。「この学生たちには次の時代を担うことはできないだろう」と。きっと悪い人ではないだろうし。いい医者にはなるだろう。しかし次の時代のイノベーションを起こす人材にはなり得ない。イノベーションとは新しい時代を切り開く変化を起こすことです。きっとこの学生たちに変化は起こせない。イノベーションを起こすことができるのは、つばめ塾の生徒である、まさに皆さんのような人材です。ではどうしてそれができるのか。次の時代を切り開くには、「共感力」と「コミニュケーション力」が必要だからです。困っている人がいたら、声をかけてあげる。自分でできることがあったら助けてあげる。人の困っていることに共感できる力、そして手を差し伸べることができるコミニュケーション力。それはまさしくつばめ塾の先生が授業中に皆さんにしてくれたことであり、それを受けた皆さんにはその力が備わっているはずです。

私は小さいころめちゃくちゃ貧乏で、年収が150万円くらいの家に育ちました。1番酷い時は98万円でした。高校も途中からお金がなくなって、退学になりそうだったので、国から奨学金を借りて、何とか卒業できました。祖父母の援助を受けて何とか大学に進めたものの、入学しても教科書を買うお金がなく、1ヵ月程教科書を持たずに授業に出ていました。さらに3日前に友達になった人に、「お金貸して!」とお金を借りて歩く毎日でした。だから親がお金を持っているというだけで何の苦労もなく過ごしている人を羨ましく思ったり、バカにしてみたり……、実は30歳過ぎまでそういう感情は心の奥底にありました。

でもある時にそれを吹き飛ばすことができたのです。ある人にこう言われました。「例えば、あなたの目の前に2人の人がいるとします。あなたはそのうちの1人とだけ、一緒に仕事やボランティア活動することができるとしましょう。Aさんは小さいころから何不自由無く育ち、周りからチヤホヤされて育った人、Bさんは小さいころに苦労を重ね、一生懸命努力している人です。あなたならどちらを選びますか?」こう言われた時、私の心の奥底に30年間あったモヤモヤが一瞬で晴れわたりました。自分だったら100%、一瞬も迷うことなく、Bさん、つまり苦労を重ねてきている人を選ぶだろう。自分がそういう人間を目指していけばいいんだ!! そう思えた時、初めて周りの人が気にならなくなりました。「小宮くん、私と一緒にこれをやりませんか?」と声をかけてもらえるような人になりたい!!と思えました。そう思えば、苦労はして当然!! 我が家が貧乏だったことも、むしろ感謝に変わりました。うちが貧しい家でなければ、絶対につばめ塾など立てませんでした。どこかの無料塾の一講師としては行ったかもしれません。でも自分で立ち上げることは絶対になかったと言い切れます。

そう考えると、経験というものが今後の人生を左右します。お母さんやお父さんの経済的に苦しい場面を見て、そして一生懸命に働いている姿を見て育った皆さんは、これから大きく活躍する種を既に持っています。皆さんは、決して不利な立場にいるのではありません。他人の苦労が理解できるという「有利な経験」を得ているのです。

塾を立ち上げて4年半、「経済的にかわいそうだからやってあげよう」などという気持ちで運営したことなど一度もありません。「つばめ塾の生徒こそ、次の日本を担うリーダーなんだ」と言う気持ちで毎日取り組んでいます。塾を立ち上げる時は、実は一瞬だけ迷いました。当時は映像制作の仕事をしていて、めちゃくちゃ忙しい毎日の中で、そんなボランティアを始めることができるのか、自分が30年後に会社を定年退職してからでもいいのではないか……。でも、こう考えました。毎年1人の卒業生を送り出すとして、30年の間に、最低30人に出会うことができる。でも今立ち上げなければ、その子たちと出会うことはできない。そう思ったのです。次に、3人いる息子に後姿を見せておきたいというのもありました。「うちの親父は家にほとんどいなかったけど、何の得にもならないつばめ塾とかいうボランティアを一生懸命やっていたな」と思ってもらいたかったのです。

そう考えると、作って本当に良かったです。こんなにも多くの生徒がつばめ塾に通って来てくれて、出会うことができた。こんなに素晴らしいボランティアの先生方と出会うことができた。これ以上嬉しいことはありません。つばめ塾を作って半年後に、私は正社員の映像制作の仕事を辞めました。当然我が家は経済的に厳しくなったので、いくつも仕事を掛け持ちして暮らしています。今まで、お弁当屋の配達、皿洗い、コンビニの深夜バイト、家庭教師、予備校の講師、高校の非常勤講師などあらゆる仕事をして何とか暮らしてきました。でも一度も後悔したことはないし、嫌だと思ったことはありません。ただ、これが自分のためだったら、きっと頑張れないと思うんです。「子どもを育てるためだ!!」とか、「つばめ塾を運営するためだ!!」とか思うと人間は頑張れます。ですから皆さんも高校で、自分のためだけでなく、将来出会うであろう友人のため、恋人のため、旦那さんのため、奥さんのため、自分の子どものために勉強してみてください。そういう人に出会った時に「素敵な自分」になるために勉強してみてください。誰かのためにだったら頑張れる自分がどこかにいるはずです。私は、つばめ塾を運営するためならいくらでも力が湧いてきます。

さて、また話は変わり、皆さんは高校で頑張っていると思いますが、良好な人間関係を保つ秘訣をここで教えてあげましょう。それは3つあります。

1、呼ばれたら「はい」と返事をすること

こういう返事をきちっとする人は清々しく、素敵な人に見えます。暗く、小さい声で「はぁい」と言う人とお友達になりたいとは思わないでしょう!

2、自分から「おはよう」と挨拶をすること

きちっと挨拶をすることは、「自分があなたのことを気にかけていますよ。親しくなりたいと思っていますよ」という気持ちの表れです。自分のことを気にもかけてくれない人とお友達になろうとは思わないですね。

3、履物をそろえ、立ったら椅子を入れること

自分の身の回りのことをきちっとできない人が大きな目標を達成することなどできません。自分の夢に向かって小さなことをコツコツ積み重ねるにはいい練習になります。

以上のことを気に留めて実行してみてください。僕も高校生の時から実行しています。これからは、今まで以上に、「コミニュケーション能力」が仕事に必要とされる時代になります。これらを実行して、基本的なコミニュケーション能力を日々磨いて、向上させましょう。ここで言うコミニケーション能力とは、単に明るく喋ることでは決してありません。「心をこめて誠実に人と接すること」です。

さて、長くなりましたが、最後につばめ塾の夢をお話ししします。つばめ塾を設立した理念は、「現実に生徒の学力を上げてあげて、世の中を立て直したい」ということです。では世の中を立て直すとは何か? それは、「自分さえ良ければいい、お金さえあればいい」という価値観から離れ、「自分もいつか人の役に立てるような人になりたい」という人材を一人でも多く育てることです。
つばめ塾は、ボランティアの先生方が、交通費ももらわず、無料で皆さんに教えてくださいました。そのことを忘れず、皆さんもいつか自分のできることで結構ですから「人に手を差し伸べられる人」になってください。そうなってくれることが、つばめ塾の一番大きな夢であり、講師一同が何よりも嬉しいことです。

最後に、今まで育ててくれた保護者の方に是非感謝してください。最高の親孝行はこれからの人生を一生懸命生きることです。
素敵な高校生活になるよう、つばめ塾の教室からいつも祈っております。

八王子つばめ塾 2016年度卒業文集より転載

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小宮位之

投稿者の記事一覧

1977年東京都生まれ。八王子の貧困家庭に育つ。
都立南多摩高校卒業後、國學院大學文学部史学科を卒業、4年間私立高校の非常勤講師を勤める。その後映像制作の仕事に転職。
2012年9月、任意団体八王子つばめ塾を設立。2013年10月、特定非営利活動法人八王子つばめ塾を設立、理事長に就任。
現在は映像制作の仕事を辞め、私立高校の非常勤講師などの非正規雇用の仕事に就きながら、無料塾の発展に尽力している。
八王子つばめ塾は、経済的に苦しい家庭の中高生に無料で学習支援をしている。
現在、生徒90名、ボランティア講師65名、教室6カ所に成長。
八王子つばめ塾を見学してから作られた無料塾は全国で20団体程度ある。
姉妹団体として、2017年3月、神奈川県相模原市に「淵野辺つばめ塾」を、8月に大阪府豊中市に「豊中つばめ塾」を設立。それぞれ代表をつとめる。
つばめ塾は、「ボランティアで構成されるつばめの巣から巣立った子ども達がいつかまたボランティアというフィールドに戻ってきてもらいたいという願い」から名付けられました。

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